ザナルカンドは眠らない、キミは笑って言った。
目を細め、髪を揺らして笑うキミ。
そんなキミが大好きで、そんなキミを好きになれば成る程、時間が止まればいいと私は願った。
そして私達は夢から醒めた。私達は長い夢を見ていた。




ユウナは一人、浜辺に立っていた。
遠くに地平線が見える。海は青々と、その雄大さを称えていた。
空には夕陽があり、頬を撫でる風が心地よい。
目を細めてそれを受け、足下にある貝を屈んで取る。
それは淡い水色の、今までに見たことのない色だった。

『海に潜る!グルグル考えが頭のなかにあるとき、これ最高ッス!!』

耳元で声を聴いて振り返る。そこにあるのは見慣れた砂浜、ユウナの足跡だけがある。
ユウナは小さく笑って、海を見た。
海に浮かび、目を細め太陽を受ける姿を思い浮かべる。

あれから半年、ユウナは大召喚士となった。
小さな島、ビサイド島には多くの人々が押し寄せた。人々は口々に言う
「シンとの戦いを教えて下さい」
ユウナは語った。シンとの戦いのこと、途中立ちはだかる敵の強さ、何度も挫けそうになったけれど
ガードの支えでシンを倒せたこと――。
目を細め、溜息混じりに人々は言う。
「お父様もお慶びになっていることでしょう」
人々が笑えばユウナも笑う。これがユウナの目指していたこと、シンを倒し、人々に笑顔を返すこと。

だけど時々、悲しみが訪れる。
人々の笑顔を見れば見るほど、胸の痛みは大きくなるのだ。
スピラの人々がもう悲しみに打ちひしがれることはない。
海の彼方からやってくる恐怖に脅えることも、突然家族を、大切な人を亡くすことも、私が異界送りをすることももうない。
それはユウナが手にしたかった幸せそのものだった。


掌にある貝殻をぎゅっと握りしめる。
シンがいない。あの恐怖が消えた。シンがいない、シンを倒したと同時に消えた人。
シンがいないというのなら、あの人も――。


『俺、消えっから!!』
別れの言葉にしてはあまりにも明るい声だった。
鈍器で頭を殴られたような、そんな感覚を覚えた。
脳裏を駆けめぐる湖で交わした言葉、触れた頬、掌にはまだ感触が残ってる。
キミは私を置き去りに行ってしまうと言うの?あの約束はどうなるの?
最後の戦い、あんなに近くに感じたキミの背中が遠くに感じた。悲しかった。
でも、どこかこうなるかもしれないという気持ちはあった。
祈り子の間での下手な嘘。そう、あの時からキミは私達に嘘をついた。

キミはこの海からきた。私に新しい気持ちを植え付けてくれた。みんなに笑顔を与えた。
諦めちゃいけない。私にとってそれは、とても心強い言葉だった。

嘘じゃなかったよ、全部、全部本当だった。
ザナルカンドへ、キミの街へ、キミの家へ。
嘘じゃなかった。本当に行きたかった。
笑うキミの頬に触れて、キミの腕のなかで眠るの。夢で終わらせたくない夢なの。

キミに教えて貰った通りに指を口にくわえ、息を思い切り吸って吐き出す。
澄んだ音は海の彼方へ飛んでいく。届けと願うんだ。
キミに届いたら、きっとキミは帰ってくる。
この砂浜に、ビサイド島に帰ってくる。



だってキミは、海から来た人だから。





2005/09/20 meri.





inserted by FC2 system