「ねえ、クラウド」


ここは古代種の神殿。道が入り組んでいて、壁にはツタが這っている。
ここで迷わぬ方法は、目の前を行く古代種の精神体に着いていくこと。
軽やかに階段を駆け登る古代種の精神体を見つめ、溜息をつく。
いい加減、疲れた。
敵は止むことを知らないし、ここは入り組んでいる。
早く、体力を回復して貰いたい。


「クラウドったら!」


必死に名前を呼ぶエアリスを無視して、エアリスは疲れないのだろうか、とクラウドは思う。
今までエアリスが一方的に話していた内容は、どこの街のご飯がおいしかった、あそこから見た景色は最高だった、という
他愛のない、今後なんの為にもならないようなことばかりだった。
くだらない。クラウドは思う。今度はどんなくだらない話をするのだろうか。自然と溜息が出る。

「何だ」

振り返って、エアリスを見ると、彼女は額にうっすらと汗を掻きながらも口元は微笑んでいる。
祖先を感じ、嬉しいのだろうか。エアリスの隣にいるレッド13も、相変わらず元気だ。

「もう一回、ゴールドソーサー、行きたいね」

えへへ、と笑って、エアリスが言う。
ゴンドラから見た夜景を見たい、とエアリスが続ける。
半ば強引に誘われた、二人で廻るゴールドソーサー。
目の前を横切るチョコボ、色とりどりの風船。

「伝説の勇者、アルフリードを演じるクラウドも、もう一回見たいな」

「なになに?」

「エアリス!やめてくれ!!レッド13も興味を示すな」

「だって〜」

不満げに頬を膨らますエアリスと、好奇心で目を輝かせるレッド13。
劇中、エアリスの手の甲にキスしたことを思い出す。
その場のノリとはいえ、凄いことをしたものだと思う。思い出したくない。
これは今までの話の中で、最高にくだらない話だ。

「クラウド、耳赤い」

「あっ、ほんとだ〜」

背後からの声を無視して階段の先を見上げる。
先程までいた、精神体はいなくなっていた。
きっと、先に行って待っているのだろう。

急ごうと、声をかける前に、先程決めたことを口に出す。
「エアリス、レッド13、決まりを守れよ」
クラウドの言葉に、エアリスとレッド13が頷く。
やたらと入り組んでいる古代種の神殿での約束事。
今まで数回、目を離した隙に敵に襲われるということが起こった。
正直、それは面倒だ。だから、目が届く範囲にいるようにと決まりを作った。








「なのに・・・エアリス」

溜息混じりにクラウドが続ける。

「ちゃんと歩け」

決まりを作ったのは良いのだが、エアリスは歩くのが遅い。
クラウド達の前で歩かせるが、すぐにクラウドがエアリスを越してしまう。

「だって・・・」

エアリスが腰に手を当て、反論する。

「私はか弱い女なの。元ソルジャーさんと、レッド13とは違うのよ」

ねえ?とレッド13に同意を求める。レッド13はエアリスとクラウドを見比べ、うなだれた。

「私に合わせてくれたって、いいんじゃないの?」

「エアリス、気持ちは分かる。だが、俺達は急いでるんだ」

「分かってる。けど・・・」

「分かってるならなおさらだ。セフィロスが黒マテリアを手に入れる前に行かなくちゃいけない」

「・・・」

「辛いとは思うが、頑張ろう」

その言葉に、うん、とエアリスが頷く。顔を上げ、クラウドを見つめ微笑んだ。

「クラウドが、そんな事言ってくれたの、初めてかもしれない」

嬉しい、と微笑むエアリスに背を向ける。

「クラウド、照れてる?」

レッド13の言葉を無視し、足を踏み出す。
ダメだ、この二人といると調子が狂う。
背後から聞こえる、エアリスの足音。
パタパタと、必死で追いつこうとしているのが分かるが、暫く歩いていると、音が遠ざかる。

振り返ると、肩で息をしながら、ゆっくりと歩くエアリスの姿。

「エアリス・・・」

クラウドがやれやれと、首を横に振ると、隣にいるレッド13が声を上げる。

「クラウド、エアリスはエアリスなりに頑張ってるよ!」

必死に、エアリスを庇おうとするレッド13に驚く。
レッド13は、エアリスのことが好きなのか?
よく、二人でいるところを見る。
エアリスが、レッド13と星を見上げる姿。

「エアリス、クラウド疲れてるの知ってたよ。だから、ああいう風に話しかけてたんだ。
話に熱中したら、長い道のりも短く感じるから」

ゴールドソーサーに行きたいね、と言うエアリスの言葉を思い出す。
話をしていた間は、何故このようなくだらない話をするのだろうとか、体力を消費するだけだとか思っていたが
話に熱中すれば、長い道のりも短く感じるというのはあながち嘘ではないような気がする。話に熱中できればの話だが。

「レッド13は、エアリスのことが好きなのか?」

「好きだよ。エアリスと一緒に旅できて、良かったって思ってる。
でも、エアリスが本当に好きなのは・・・・・・」

「何だ?」

レッド13が、歩くエアリスを見つめて、首を横に振る。

「やーめた。教えてやんない」

その場にお座りをして、ぷいと顔を背ける。
そんなレッド13が面白くて、笑みがこぼれる。

「ありがとう、レッド13」

レッド13が、どういたしまして、というように、尻尾を左右に振る。


エアリスの元へ向かい、声をかける。
「大丈夫か?」

数秒経ってから
「だいじょぶ」
返事が返ってくる。

細い肩で息をするエアリスを見つめ、本当に大丈夫か?という問いかけを飲み込む。
こんなに、エアリスが疲れているのは自分が急かしたからだと知っている。
だけど、俺達は急がなくちゃいけない。

「エアリス、ケアルラは使わないのか?」

「もしものこと、考えて。でも、だいじょぶ。ちゃんとついて行くから・・・」

「使ってしまえ。エーテルもある」

「・・・」

でも・・・と渋るエアリスに、クラウドが手を差し出す。

「手を出せ」

クラウドの言葉に、エアリスが目を見開く。
クラウドの肩越しに見えるレッド13は、尻尾をちぎれんばかりに振っていて、エアリスはそれを見て笑った。
だが、どこか腑に落ちないようで、何やら考えた後、エアリスが笑って言った。

「ルーザ姫、でしょ?」

「・・・」

「言ってくれなきゃ、私歩けない」

顔をしかめるエアリスに、クラウドが幾度めかの溜息をつく。
暫く何かを考えた後、深呼吸を何度か繰り返し、心を決める。

「ルーザ姫、お手を」

眉を寄せていたエアリスの顔がほころぶ。
クラウドを見上げ、とても嬉しそうに、にっこりと笑った。
そして、スカートの裾を持ってちょこんと、お姫様の挨拶をすると
「ありがとう、伝説の勇者、アルフリード」
クラウドの掌に、エアリスの掌が触れる。

ぎゅっ、とエアリスがクラウドの手を握ると、躊躇いがちにクラウドが握り返す。
エアリスの手は温かく、少し汗ばんでいて、柔らかかった。

「クラウド、デートは初めてじゃない、って言ってたけど、嘘でしょ」

「エアリス、あまり喋ると疲れるぞ。あと、これは誰にも言うな。ユフィとバレッドには絶対だ。
どんな冷やかしを受けるか・・・」

「・・・あっ、クラウドの手、汗ばんでる」

「悪かったな。そんなに言うのなら、手を離すぞ」

「ごめんごめん、まだ疲れてるから、暫くこのままでいさせて」

「・・・精神体に追いつくまでだぞ。追いついたら、体力を回復して貰う。それまでだ」

「はいはい、分かってます」


ゆっくりと、時間をかけてレッド13の元へ着くと
「精神体、もっと遠くへ行っちゃったよ」
残念だね、という言葉と裏腹に、どこか嬉しそうに言うレッド13に溜息をつく。

「クラウド、手、離しちゃだめよ」
くすくすと笑うエアリスにも溜息。

ぴょこぴょこと、壁から体を見え隠れさせる精神体を見つめる。
奴に追いつくまでだ。奴が体力を回復させてくれるまで。

「急ごう」


手を強く握って、大きく足を踏み出した。











2005/05/25 meri.
2005/06/18 改訂







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