エアリスは本当に俺よりも年上なのか。クラウドは静かに溜息をついた。
二人で買い出しに来て、会計に並んでいると
「私、別のお店見てくる!」
そう言ってエアリスはクラウドから離れた。ちゃんと戻って来るんだぞ、というクラウドの言葉に何度も頷きながら。
それだというのに、どうだろう。エアリスは一人の男と喋っているではないか。
へらへらした締まりのない顔、薄汚れた服に身を包む男をみて良い印象は受けない。
群衆の中に見え隠れする二人を背伸びして確認する。
「ちょっとお客さん。後ろ、つまってるんですけどね」
声をかけられクラウドはハッとした。後ろを見ると、沢山の人が行列を成している。
眉根を寄せ、不機嫌な表情をあからさまに出す店番の女に硬貨を渡し、エアリスの元へと急いだ。

「エアリス」
「あっ!クラウド!」
近寄るクラウドにエアリスが気付いた。
笑顔で手を振ってから、男に向かって舌を出し「べーっだ!」と言うとクラウドの元へと走り寄ってきた。
クラウドの元へと走り寄るエアリスに、男は舌打ちをしてから群衆の中へ消えていく。
にこにこ笑うエアリスに、クラウドが口を開く。
「エアリス、年相応の行動を心がけて欲しいんだ。子供じゃないんだから」
クラウドはそれだけ言うと、腕に抱えていた紙袋を一つ、エアリスに渡した。
笑顔だったエアリスは俯いて、紙袋の中を確認した。缶詰が大量に入っている。
エアリスはそれを素直に受け取ると、ごめんね、と言った。
クラウドは何も言わずに歩き出した。エアリスも後に続く。
エアリスの持っている袋は重いだろうとクラウドは思った。だが、すこし罰を与えてもいいだろう。

「でも、追い払うつもりだったの」
背後のエアリスが唐突に切り出した。反応を返さないクラウドにエアリスが続ける。
「私、スラム育ちだから、ああいうの慣れてるの。でも、あの人、なかなか引き下がってくれなくって」
エアリスはそこで走り出し、クラウドの前に回り込んだ。
クラウドは行く手を阻まれ足を止め、エアリスは紙袋を抱えたまま片手で拳を作った。
「あと少しで叩こうと思っちゃった。頭を、こう、ポーン!と」
言いながら、拳を振って叩く素振りをする。
「だけど、クラウドが来てくれて、助かっちゃった」
言い終わると、クラウドを見てにこりと笑ったが
クラウドは無表情のままエアリスを一瞥すると、脇をするりと通り抜け何事もなかったように歩きだした。

背を向けて去っていくクラウドを、エアリスは呆然と見つめていた。
クラウドと仲良くしたいと思うが、クラウドにそういう気はさらさらないらしい。
私の方が年上なのに、クラウドはきっと呆れていることだろう。
きっとうんざりしたに違いない。しっかりしないと、迷惑をかけないように。
溜息を一つついて、足下にある石をコツンと蹴る。こういうのも、子供っぽい。エアリスは足を慌てて引いて、また溜息をついた。
それからクラウドの後に続こうと顔を上げるが、エアリスは足を踏み出すことができなかった。
クラウドを見失ってしまった。人混みの中、物思いに耽っている隙にクラウドがいなくなってしまった。
宿屋はどこだっただろう。辺りを見渡すが、この人混みの中では自分がどの位置に立っているのかも分からない。
先程のクラウドの言葉が頭を過ぎる。
また迷惑をかけてしまう、エアリスは辺りを再度見渡したが、クラウドの姿はやはりない。
ゆっくりとその場にうずくまり、息を吐いた。淡い白い息が出て、自分の不甲斐なさに悲しい気持ちになった。

「エアリス!!」

突如名前を呼ばれて顔を上げる。人が沢山いるというのに、クラウドの声はエアリスの耳にしっかりと届いた。
「クラウド!」
「エアリス!下手なことはしないでくれ、そこで待っていればいい!」
クラウドの声に人々が振り返る。エアリスは構わず歩き出していた。
声の方向に進んでいくと、あの目が醒めるような金髪が見えた。
「クラウド!」
精一杯背伸びをして手を大きく振ると、クラウドが人を掻き分けて目の前に現れた。
クラウドと目が合った瞬間、過去がフラッシュバックした。そうだ、あの人もこうやって私を見つけだしてくれた。
「さっき言ったばかりだろう!」
ぼんやりとしているエアリスにクラウドが言う。エアリスは頭を下げ、ひたすら謝った。
「いいか、絶対に俺から離れないでくれ。絶対だ」
何度も念を押し、クラウドがエアリスの手から紙袋を取り上げる。
エアリスは慌ててその紙袋を掴んだ。クラウドが驚きの表情を見せる。
「これ、私が持つよ!迷惑かけたから、絶対持っていく」
「いや、俺が持つ。エアリス、あんたは俺にちゃんとついて来てくれ」
それだけでいいんだ、クラウドは言って紙袋を抱えると歩き出した。

クラウドは先程のように足早に歩くこともなく、エアリスの歩幅に合わせて歩いてくれた。
そのお陰でエアリスはクラウドの横に並んで歩くことができて、とても嬉しい気持ちになった。
密かに、クラウドのコートの裾を握った。これならはぐれないと、どこか誇らしい気持ちにもなった。
クラウドは気付いていたがなにも言わず、ただエアリスがはぐれないようにゆっくりと歩いた。

クラウドと一緒にいると、あの頃を思い出す。切ない思いに胸が苦しくなった。あまりにも、クラウドは似ているんだ。
そっとクラウドを見上げると、クラウドと丁度目が合い、エアリスはにこりと微笑みかけた。
きっと反応を返してくれないだろうと思ったが、ほんの一瞬、クラウドが優しい表情を見せたことにエアリスは驚いた。

「クラウド、素敵な夜ね」
エアリスが頬を赤く染めて、興奮気味に言いながらクラウドの腕を軽く叩いて笑う。
そんなエアリスの行動が理解できないのか、クラウドは首を捻った。エアリスは構わずふふ、と笑い
「ほんとに、素敵な夜よ」
それを呟いて、夜空を見上げゆっくりと息を吐いた。

そっと瞳を閉じて耳をすませると、どこかで冬の足音が聞こえる、旅の途中での出来事だった。










05/12/5 meri.









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