あの歌の題名を聞いておけばよかった。
ティファに聞いても知らないと言うんだ。時折口ずさんでしまうあの歌だよ。
あんたはあの歌を誰に宛てて歌っていたのだろう。今となっては分からない。





クラウドは何が好き?
これは俺がもっとも苦手とする言葉だ。
改めて考えてみると、俺には好きなものは何一つない。
そこで初めて、自分がくだらない、小さな人間だと気付かされる。
そういう自分が見たくなくて、俺は目を瞑り、興味ないな、と答えるのだ。
いつからだろう、これが無意識のうちにできてしまったのは。質問するエアリスに俺はいつも言った。
「くだらない。あんたには関係のないことだろう」
尋ねると、頬を膨らませて酷いなあ!と言った。
あんたは子供なのだと言うと、エアリスはどこか嬉しそうに笑った。
バカにされているというのに、何故笑うのか俺には理解できなかった。


エアリスは歌を歌うのが好きだった。
普段歌というものに興味を示したことのない俺にとって、エアリスの口から紡ぎ出される音楽は何一つ知らなかった。
エアリスは気持ちよさそうにそれを歌いながら平原を歩いていく。
後から続くレッド13に歌を教えているようだった。途中ティファも参加し、二人と一匹で合唱を始める。
俺は密かにそれを見て笑っていたというのに、一緒に歌おう、と誘うエアリスに興味ないな、と返した。
それでもエアリスは笑った。しょうがないな、というように。俺はできるだけ無関心を装ってその背中を見つめた。
本当は一人の時口ずさんでいた歌だった。否定しながらも、一緒に歌うのを望んでいた。今となっては一緒に歌うこともできない。

あの日のエアリスも、歌を歌っていたのだろうか。
光り差す祭壇の中央で、エアリスに刀を振り上げた瞬間、歌を聴いた気がした。
それはエアリスの口から発せられたものなのか、俺自身が歌っていたものなのかは分からない。
飛び散る血はさながら赤い花そのものだ。
足が震え、崩れ落ちるエアリスを抱きしめる。
エアリスの唇は徐々に色を失っていった。徐々に生を失う体を抱きしめる。星へ還らないでくれと願いを込めながら、まるで子供のように。


赤い花摘んで あの人にあげよ あの人の髪に この花さしてあげよ
赤い花 赤い花 あの人の髪に 咲いて揺れるだろう お日様のように――


頭に響くあの歌声、いつの間にか覚えていたそのリズム、歌詞。
エアリス、あんたはいつもそれを歌っていた。みんな知ってる。だが、題名は誰も知らない。
お願いだ、もう一度目を開けて、俺にその歌の名前をおしえてくれ。もう一度、その声を聴かせてくれ。そして一緒に歌うんだ。
そうして、言えなかった気持ちを伝えるんだ。それが最後でも構わない。


エアリス、もう一度あの歌を。









2005/09/20 meri.
文中で使いました曲は「赤い花白い花」です。
作詞作曲 中林 ミエさん。とても素晴らしい歌なので、是非聞いてみてください。




inserted by FC2 system