目に映るのは一面の夜空。きらきらと輝く星に、ユウナは祈りを込めて言う。
「無事に旅ができますように!」
ユウナの小さな願いは、白い息となって夜空に上っていく。

ユウナの背中にはテント、目の前には煌々と燃えるかがり火があった。
持ち回りで火の番をしているが、ここは平和そのものだ。テントから聞こえる誰のものか分からぬいびきも、微笑みに変わる。
枝が音を立てて弾け、火の粉が暗闇に舞って美しい。
指を組んでそれを見つめていると、気づかぬうちに顔を近づけてしまって頬が熱くなった。
「ユウナ、交代だぞ」
テントから声をかけられ、ユウナは笑顔で振り返った。
そこから出てきたワッカは「なんだ、ご機嫌だなァ」と言いながら丸太に腰を下ろした。

ワッカはいつもにこにこしている。
何があっても、にこにこ。笑顔であることは、簡単に思えてとても難しいことだ。
だが、今のユウナはそれを素直に喜ぶことはできなかった。
ワッカの頭から頬にかけて包帯が巻かれ、ワッカの笑顔と相対的なそれは痛々しい印象を受ける。

それは今日の昼のことだった。
リュックとワッカは何か楽しげな会話を交わし、二人の後にユウナたちが続く形で平原を歩いていた。
リュックとワッカの歩くスピードは早く、アーロンはもっと歩調を合わせるようにと何度も伝えたのにも関わらず、彼らはそれに従わなかった。
ユウナはさほど危機感をもっていなかった。
なぜなら、地平線まで見渡せる平原でモンスターは目視できたからだ。
しかし、突然リュックの悲鳴が上がった。
リュックに立ちふさがるようにモンスターがいたのだ。鋭い爪は血に濡れ、口周りの毛もまた、血で黒くなっていた。
突然のことにリュックは腰を抜かし、必死にホルダーを探っていたようだったがその手は震え、攻撃アイテムを掴むことができなかった。
ユウナ達は走ったが、走ったところで間に合う状況ではなかった。
モンスターの鋭い爪がリュックに振り下ろされたとき、彼女を庇ったのはワッカだった。

「ごめんね」
あの状況で助けられなかったことに対しての言葉だった。
ケアルをかけたものの、包帯には血が滲んでいる。ワッカは頭から頬にかけて傷を負った。幸い重傷ではなかったものの、感染症が心配だ。
「明日には、村につくみたいだから。お医者さまに診てもらおうね」
「これくらい大丈夫だ」
ワッカは笑い、怪我をした頬を叩いて顔を真っ蒼にした。
頬を押さえてうずくまろうとして、押さえて余計痛かったのか今度は顔を上げてじたばたと暴れている。
思わず笑い出したユウナに、ワッカは「笑ってる場合じゃない!」と悲痛な声を上げて暴れ続ける。
ケアルをかけると、ワッカは息を吐いて恥ずかしげに笑った。

ワッカの笑顔には、人を元気にさせるものがある。
「ワッカさんの笑顔、好きだよ」
「それは光栄なこった」
わはは!と大きな声を上げて、ワッカは笑った。ユウナが人差し指を当てると、慌てて口を閉ざす。
表情が何パターンもあるワッカ。大きくて、包容力のある大好きな人。

きっと、スピラの人々にもワッカのような人はいるのだ。
それは父であり、母であり、兄妹であり、恋人で、人々はその笑顔を守るために生きている。

目に映るのは一面の夜空。きらきらと輝く星に、ユウナは祈りを込める。
皆と無事旅ができますように。
一日も早く、シンを倒せますように。
この笑顔を、一人でも多くの笑顔を絶やさぬために私は行こう。


「ザナルカンドは寒いかもしれないけど、ワッカさんの笑顔できっと暖かいわ」

そしてこの人はその笑顔で、私の恐怖をも打ち消してくれるだろう。










2007/02/19 meri.











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