途中立ち寄る場所には、思い出が溢れかえっている。
10年前、ここで食事をとった。ここで喧嘩をした。あのとき、笑いあった。
ガガゼト山では、寒い寒いと弱音を吐くジェクトを叱咤し、それを見てブラスカは笑った。
北へ近づくたび、ザナルカンドへ近づくほど、10年前の、若かりしアーロンの気持ちは沈んだ。

そしてナギ平原。ここでブラスカは死んだ。
一つ一つが懐かしく、何もできなかった己に苛立つ。
死者として異界へ行かず、現世に留まって、そしてジェクトとの約束を果たし、アーロンは逝く。
それでいい、アーロンは思う。



ユウナレスカを倒した後、皆はそれぞれの思いを抱いてその場を後にした。
ワッカはどこかスッキリとした顔をしていて、不安げな顔をしていたユウナの手をティーダが握れば、ユウナはにこりと笑った。

アーロンは一人一人の表情を見つめた後、広間を振り返る。
10年前と何も変わらぬこの風景。
ユウナレスカに倒されたこの場で、たった今、ユウナレスカを倒した。
古傷がずきりと痛む。死者のはずなのに、時折古傷が痛むのだ。

右眼が痛むと、右眼の記憶が蘇る。
右眼が見てきた世界、笑うブラスカ、怒るジェクト。
ブラスカは死に、そしてジェクトはシンとなった。


あの頃は青かったとアーロンは一人笑う。
それはティーダのように、とても若く、そして無知だった。


右眼の痛みが収まってきた。
もう訪れないであろう広間を再度、一人振り返る。
ここでしたジェクトとの最後の会話。


『息子をたのむ』

そしてスピラへ。

シンとなったあいつの目がそう語っていた。
息子の手で終わらせてほしい。そう言っていたんだろう、ジェクト。
もうすぐだ。もうすぐ、その約束が果たせる。



「10年だ。長かったな」





一人呟いて、右眼の記憶に別れを告げた。









2005/06/23  meri.






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