階段から足を踏み外したのを覚えてる。
目を見開くクラウド、腕を伸ばし、私の腕を取ろうとするティファ。
その手は私に届かず、私は落ちていく。辺りがスローモーションで流れる中、私の意識はぷつりと切れた。






次に目を覚ましたのはベッドの上だった。
最初に目に入ったのは今にも泣きそうなユフィの顔。目線を横に動かすと、そこにはシドがいた。
「エアリス、ずっと眠ってたんだよ」
ユフィが安堵の息を吐きながら言う。シドは頭を掻いて、そっけなく私の頭を二、三度ぽんぽん、と優しく撫でた。
それからまた頭を掻いて、後ろを振り向き言った。
「クラウド、お前も何か言うことあるだろうが」
「そうだよ。私達の側で一緒にいたくせにさ〜クラウドだって心配してたんでしょ!」
クラウド、名前を聞いて頭を動かす。
シドは私の行動に気付いたのか、悪戯っぽく笑った。ユフィも同様に笑い
「そうだ、みんなに教えてくる。ティファ、エアリスの為にご飯作ってるんだ。
きっと美味しいよ。持ってくるからさ、暫くクラウドと話しといて」
言うと、半ば強引にシドの手を引っ張りユフィは部屋を後にした。
途中、クラウドと何かを小声で話しているようだった。クラウドは眉をひそめ、一言何か言った。

二人が部屋から出ると、先程まで騒がしかった部屋は静まり返った。
壁には見慣れた顔があった。相変わらずの仏頂面で、私ではなく、窓から外を見ている。
「次は古代種の神殿に行くはずなのに・・・」
言うと、クラウドが窓から私に視線を移した。
「私のせいで、遅れちゃったね」
「エアリスのせいじゃない。みんな何も言わないが、体力は限界だった」
相変わらず、表情一つ変えずにクラウドが言った。私は変わらないその行動に自然と頬が緩んでしまう。

「それでも、私のせいだよ。セフィロス、追わなきゃいけないのに」
「後悔する暇があるなら、早く回復してくれ」
溜息混じりにクラウドが言う。
やっぱり、クラウドだ。私は嬉しくて、また笑った。
「何がおかしい」
眉を寄せてクラウドが尋ねる。私は頷いて、毛布に顔を埋める。
「クラウドにまた会えて、みんながいてよかったなあ、って」
きっと、クラウドは首を捻っているだろう。何を考えているのだろう、って。あんたはやっぱり分からないって思ってるだろうな。
金髪の髪も何一つ変わっていない。当たり前だけど、なんだかとても懐かしく思えた。
「クラウド、ありがとう」
笑って言うと、クラウドはまた首を横に振った。首を横に振る姿はクラウドの癖のようになっている。
おもしろい、笑っていると、私の顔をのぞき込み、クラウドがゆっくりと口を開いた。

「本当は、心配していた」

先程の仏頂面のままで、クラウドが言う。突然の言葉に私は言葉をなくした。
普段聞けないクラウドの言葉。心配してくれていたの?私を?
「さっきまで笑っていたのに、急に真面目な顔をしないでくれ・・・」
大きく溜息をつきながら、クラウドが掌で顔を覆った。
「あ・・・ごめん。クラウド、普段言わないから・・・驚いちゃって」
ごめんね、慌てて言う私の姿が面白いのか、クラウドが笑ったような気がした。
その掌を外して、笑い顔を見せてくれればいいのに。私はクラウドの笑っている姿を数える程しか見たことがない。
「死んだかと思ったよ。あんた、動かないから」
顔から手を外して、クラウドが呟くようにして言った。

私はとても心が苦しくなった。それは喜びからきたものなかは分からない。
だけど、胸が痛くて、どうしようもないくらい悲しくなった。
私がこんな気持ちに陥るのは全部クラウドと、みんながいるからだ。みんなが私に、そう、新しい感情を植え付けてくれる。
私の醜い部分も、脆い部分もみんなと一緒にいて気付く。クラウド、ごめんね。ありがとう。

「だいじょぶ、ほら、私元気だから」
ね、笑うと、クラウドがまた眉を寄せた。ああ、そういう風にすると顔に皺ができてしまう。私はそれを心配して、クラウドの眉間に手を伸ばした。
「クラウドも、あんまりしかめっ面してたら皺になっちゃうよ。私、クラウドの笑ってるところ見たい」
私の言葉に、クラウドはどこか困惑しているようだった。
眉間に当てた手で、皺を伸ばす。面白い顔になって笑うと、クラウドは嫌そうな、またしかめっ面をした。

眉間に当てていた手を離し、握り拳を作ってみる。
それをクラウドに向けて笑ってみせた。
「私、生きてる。いつか星へ還って行くけれど・・・クラウド、私幸せ。
クラウドが私に優しい言葉をかけてくれて、ティファが私を助けようとしてくれて・・・みんな側にいてくれる」
クラウドは何も言わなかった。何も言わずに私の握り拳を見ているだけだ。
私は随分長いことクラウドを見つめた。クラウドを一分でも、一秒でも長く見つめていたかった。
胸にある想いを伝えたい。

「ねえ、クラウド。デート、しようね。沢山生きて、沢山デートして、全部終わったら、みんな幸せになるの。
おっきな飛空挺も、いつか乗せてね」

クラウドは眉をひそめるのを止めて、一瞬とても優しい瞳をしてくれた。
私はとても嬉しくなって、まるで今まで大事に育てていた花が咲いたような気分になった。
手を伸ばして、クラウドの手の甲を触る。拒否されるとおもっていたけれど、クラウドは手を払いのけようとはしなかった。
とても幸せな気分、今だけ、今だけでいい。

ヴィンセントに会ったときは、とてもビックリしたね。二人で遊んだゴールドソーサー、楽しかったね。
ユフィの作った料理は失敗ばかりで、ユフィはいつもヴィンセントに無理矢理食べさせて、顔真っ青になったのを覚えてる?
ティファは優しくて、何でもできて・・・まるでお母さんみたい。バレットも、一人で突っ走って行っちゃうけど、とても優しい。
レッド13は可愛くて、鼻をくすぐるととても喜ぶの。ケット・シーは色んな話をしてくれる。あの独特の喋り方で、時には占いもしてくれる。


「クラウド、この先何があっても・・・元気でいてね」
風が吹いて、窓が揺れる。もうすぐご飯をユフィが持ってきてくれるだろう。沢山食べて、元気にならなくては。
私も元気になるから、ねえ、クラウド。
クラウドが不思議な目で私を見た。
青い瞳、ソルジャーの瞳、その目を細めて笑う姿。

一度堅く目を瞑り、クラウドを見て口を開く。
「大好き、クラウド」
クラウドは一度目を見開いてから、小さく頷いた。









05/09/07 meri.





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