orbital blue

青い波長がわたしを捉えて離さない。
網膜まで届く彼の光。わたしのレンズが混濁して、彼の光をシャットダウンしてしまえばいいのに。
そうしたら、わたしは彼を思い出さなくて済むから。
かなしい思い出はだいきらい。
だって涙が出るから。涙が出て、わたしの頬を汚く汚すの。

世界のすべてがぼやけて見えて、人の顔も分からない。
わたしが愛するのは母と目の前の花だけよ。
黒ずくめの男が来たところで、わたしの網膜にはなにも結像されやしない。
ただぼやけた視界に、男の姿が映るだけ。
わたしが反応するのは青い波長。
だけどこの世界に青い波長なんて存在しない。
空は青いらしいけれど、わたしは見たことがない。
頭上を見上げても、灰色のプレートがわたしを見下ろしているだけ。

青い波長はどこへ行ったのだろう。
忘れて生きたいと願ったのはわたし。だけど、やはり忘れたくないと思い返すのもわたし。
大切な思い出がそこにはあったのに。彼の声や仕草、言葉があったのに。
わたしのレンズが濁ったから。それと同時に、わたしの心が濁ったから。
だから何も分からない。わたしはどこへいったのか。

教会の頭上から落ちてきた一人の男。
顔を覗きこむと、固く閉じられた目蓋。
何度か声をかけて、閉じられた目蓋を触る。
唸り声をあげて、男が目を開けた。

その瞬間、レンズに光が充ち溢れ、わたしはめまいを覚える。
青い光はいち早く網膜に届いて、世界が青に満たされる。
細胞がよみがえり、そして脳を刺激する。
瞬時にさまざまな思い出がよみがえる。

昨夜見たテレビ番組、一緒に食べたアイスクリーム、彼の好みのタイプ。
彼のしぐさ、笑いかた、話し方……。

眼の前の男もそれと同じ。
どこか似ている姿、そして青。

「クラウド」
名前を呼ぶと、青い光がはじける。
彼の仏頂面の顔も、光り輝いて見える。
レンズはもう曇らないだろう。
なぜなら、彼の光が届かないから。

網膜に届く青い波長。

ああ
青い波長が、わたしを捉えて離さない


2009.2.7 私が書くエアリスはとってもネガティブだ。
orbital:眼窩 眼窩とは眼球が収まっているくぼみ


「はい、これ!」
明るい言葉とともに突き出された手には、一本の花があった。
どこから拾ってきたのかわからない。花と言っても、お情け程度に小さな花弁がついているものだ。
きょとんとしているわたしに、ユフィがあれ?と声を上げる。

「エアリス、今日が誕生日でしょ?」

その言葉に、わたしはああ、と声をあげた。
そうだ、今日はわたしの誕生日だ。
「忘れてた」
「えー、誕生日忘れるとか!」
信じらんない!とユフィは大げさな口調でそう言うと、改めて笑顔を浮かべた。
「はい、これ。エアリスがスラムで売っていた花とは比べられないようなもんだろうけどさ。みんなで探したんだよ」
「みんな?」
含み笑いをして、ユフィはドアを指差した。
振り返ると、そこにはみんなが立っていてわたしを見ている。
「ね?みんなで探したんだよ。もうさー、大変でさあ。もう見たことのない虫とかいてさあ」
ぺちゃくちゃと、苦労話を繰り広げるユフィの口をティファが押さえる。

「エアリス、誕生日おめでとう。こんな雑草みたいな花で、ごめんね」

わたしはぼんやりと、みんながこの花を探しているシーンを想像した。
見たことのない虫を見たユフィの反応は面白そうだ。
必要以上に大声をあげ、クラウドやヴィンセントはうんざりした顔をすることだろう。
ナナキは花を見つけてどうしただろう?
前足で掘ったら花がぐしゃぐしゃになってしまうから、とても残念そうな顔をしそうだ。

「……ねえ、やっぱり……エアリス、こんなんじゃ喜ばないんじゃない?」
「えー!だって花がいいって言ったのティファじゃん!まあ…誕生日に雑草みたいな花は…」

妄想の世界にいるわたしを差し置いて交わされる二人の会話に、ハッと我に返ってかぶりを振った。
「ちがうちがう!ぜんぜん、そんなんじゃない」
先ほどまで黙っていたわたしが急にしゃべりだして、二人はきょとんとわたしを見る。
ユフィの手に握られている花を取って、わたしはその香りを胸一杯に吸い込んだ。
青草の、まだはるか遠い春の香りがかすかにしたような気がした。

「自然に咲いた花なんて、なかなかみつからなかったよね。ありがとう、ほんとうに、ありがとう」
わたしは思い返していた。
スラム街にいたころの、わたしの誕生日のことを。
祝ってくれたのは、お母さんと彼だった。
それだけで十分うれしいことだったけれど、友達に祝ってもらったことはない。
だから、純粋にうれしかった。
ここにはお母さんと彼がいないけれど、友達がいる。

「誕生日おめでとう」

みんなの声が重なって、わたしの心は温かく満たされる。
窓からは七色の光が降り注いで、わたしたちを包んでくれる。
それがまるで明るい未来を告げているようで、思わず涙が出そうになったけれど、ここは笑顔で言わなくちゃ。

「ありがとう」



2009.2.7 エアリス誕生日おめでとう!日記での小話でした。
ツォンさんも祝ってくれたにちがいない!と姉に言われたけれど、エアリスはツォンのことはカウントしてなさそうな気がする。そんなツォンがすき。


少年願望
(注意!ダレン・シャンで、ダレンがヴァンパイアになったあと、スティーブが一体どうなったのか知らない人にはネタばれです。お気をつけて!)




目の前にいる少年を、俺はまじまじと見つめた。
栗色の髪に白い肌……いや、白さを超えて青白くも見える。
太陽から逃れる生活を送っているからか?
俺の問いに、そいつはどこか恥ずかしそうに笑った。

その笑みを見て、なにも変わっちゃいないと思う。
こいつが消えて、俺は大人になった。
だが、こいつは尚も少年の姿でここに存在している。
別れたあの日から僅かに成長しているものの、大人の男と呼ぶにはまだ早い。
手を伸ばし、髪に触れる。
こいつのすべてが変わっていないのか確認したかった。

何か一つでも変わっていたら。

そんな期待を胸に、頭をぐしゃぐしゃと荒く撫で回す。
少年はなされるがまま「なんだよ」と不満気な声を上げたが、逆らう素振りは見せない。
少年の髪は、あの頃のように硬い髪質のままだった。
期待を裏切られたというのに、口角が上がるのを俺は感じた。

俺は一時もお前を忘れたことはなかった。
まるで初めて恋をした乙女のように、日々お前に対する思いで生きてきた。
お前はなにも変わっちゃいない。
だから、俺の決心は僅かに揺らいだ。輝かしき日々を過ごした、かつての親友を殺せるのか、って。
だが――変わらぬお前をいたぶる方が快感になりそうだ。
ああ、お前がバンパイアになってくれて良かったぜ。

ダレンの髪を撫で回すのを止めて、背中に手を回す。
骨格を手のひらで確認する。
それに俺は恍惚と深い息を吐いた。
完璧だ。こいつは完璧な少年だ。
「何も変わってなくて、ほっとした」
背中に回した手に力を込めれば、少年はいともたやすく俺の腕の中に収まった。

こいつは俺に絶対的な信頼を置いているに違いない。
「スティーブ」
夢にまで見た声で、唇で俺の名前を呼ぶ。

俺に裏切られたら、こいつはどんな顔をするだろうか。
考えただけでゾクゾクする。早く見たい。こいつが涙を流し、憔悴しきっている顔を間近で見たい。

「ずっとお前ばかりのことばかり考えていたぜ、ダレン」

次は、お前の番だ。

2008.11.22 ダレン・シャン きもいけど、こんな話が大好きだ


陰りゆく記憶

たった一人家にいて、鈴虫の鳴き声を子守唄に眠りに就く夜は、余計なことを考えてしまう。
暗闇にあの人の顔が現れる。何度も夢見た、あの湖を、あの人の笑顔がそこにある。
暗闇に手を伸ばしたところで、それに触れることはできない。
手を伸ばせば、それは消えてしまう。
伸ばした手でこぶしを作り、ぱたりと手を落とす。

わたしは不安で仕方がない。
シンが消えた世界で、人々は新たな生活を始めようとしている。
シンがいたころは、こうやって安心して眠ることなんてできなかった。
いつ、あの恐怖が海の向こうからやってくるのかわからないから。
明日は、自分自身が死んでいるかもしれないから。
でも、今は違うのだ。
愛する人や故郷をシンに奪われることはない。人々は未来に向かって生きている。
そして、わたしといった召喚士や祈り子様は、過去の産物となる。

だから−−だから、怖い。
シンが過去になったら、祈り子様が過去になったら。
あの人も、忘れられるんじゃないの?
あの人は、消えてしまうんじゃないの?
現に、あの頃は毎晩見ていたあの人の夢も、今は見なくなっている。
だから、こうして思い出している。
あの人の笑顔を、あの人の声を。

ティーダ。
まだ、覚えてる。まだ、名前だって呼べるし、声だって、いつでも思い出せる。
でも、ねえ。
早くしないと、わたしはあなたを忘れてしまう。
今は覚えていても、いつかはきっと忘れる。
きみと歩いたあの草原のことも、夜空を見上げたことも、ザナルカンドの話も、ぜんぶ忘れてしまう。

夢だったから、と人は言うだろうか。
あの人は夢だったから、忘れてもいいんだよ。きっと彼もそう望んでいるに違いない、と。
ユウナは過去にとらわれて生きていると、言うんだろうか。
でも、わたしは忘れたくない。あの人を過去のものにしたくない。
毎晩夢を見るわ。こうやって、暗闇に笑顔を思い描くわ。
そうしないと、彼を裏切るような気がしてならないの。

ねえ、ティーダ。
きみばかりが、消えていく。

2008.11.12 FF] ユウナ



やまなし おちなし いみなし

食堂で、おでんを前に固まる土井の姿がある。
廊下からその姿が見えて、きり丸は食堂へ足を踏み入れた。

「ちくわですか」
きり丸の言葉に、初めて土井が動いた。
忍者らしさを感じさせるような素早い動きは、チョークを投げるときだけのような気がする。
そんな土井が瞬時に振り返り、背後に立つ自分を見上げたものだからきり丸は驚いた。
思わずのけぞってしまった。ひとつ咳をし、気を取り直して口を開く。

「せんせ、ちくわ食べられないんでしょ」
土井が固まっている理由を、きり丸が代わりに代弁してやった。
その言葉が厨房のおばちゃんに聞こえたのか、彼女は目を釣り合げ、鋭い目つきで土井をにらむ。
土井はあわてて人差し指を自身の口にあてた。いまさらそれをしたって、もう遅いのだが。
「あったかいものを食べたいって言ったら、おばちゃんがおでんを出してきたんだよ」
小声で土井は説明する。

おばちゃん相手に、おでんはいらないとは言えなかったのだ。
もしそれを言ったら−−面倒なことになるのは目に見えている。
土井はちくわといった練りものが苦手である。
おでんに付き物のちくわを目の前に、彼はこうして動けずにいたのだ。

土井の言葉に、ふうん、ときり丸は鼻を鳴らす。
食台の上にあるおでんは実においしそうだ。
まだ出されて時間がたっていないのか、ほくほくと湯気が立ち上っている。

「……俺、食べましょうか?ちくわ」
きり丸が言うが、土井は首を横に振る。
「どうして」
「生徒は、まだ昼食の時間じゃないだろう。それに今は休み時間だし……」
「だったら、先生はずっとここにいるんですか?食べられないちくわを目の前に、ずっと?」
小声で繰り広げられる教師と生徒の攻防に、おばちゃんが気づく気配はない。
きり丸の意地悪ともいえる言葉に、土井はぐっと口を閉ざした。
「ほら、先生。食堂のおばちゃんに見つからないよう、俺が壁になりますから……その隙に、ください」
ね?と笑顔を浮かべて言ってみる。
この一言に、土井は折れた。

土井が観念したのを、きり丸はにこにこと笑顔で見ている。
実は、お腹が減っていて仕方がないのだ。
厨房を背に、きり丸が土井の隣に立つ。そのまま小さな口をあけた。
だが、愛しのちくわはきり丸の口にやってこない。
土井がきり丸を見上げたまま、箸を右手に強く握りしめている。

「……私が食べさせてやるのか?」
恐る恐るといった様子でたずねる土井に、きり丸は一度開けた口を閉ざす。
「俺がかがむと、おばちゃんに見られるでしょう」
やや呆れ気味に言うと、土井は「そうか、そうだよな」と口先だけで言葉をつぶやいている。

なるほど、この人はこういった卑怯と呼ばれるような行為はしたことがないのだ。
だから、こうして躊躇しているのだ。
「あ、せんせ。ちゃんと冷ましてくださいね。やけどするの嫌ですから」
きり丸の注文に、土井は困惑を隠し切れていない。
それを純粋に、いいなあ、ときり丸は思う。
俺はそういうことに対して、罪悪感とか、そういった類のものは感じないから。
同時に、面倒な人だなとも思う。

「はい、あーん」
自分で言って、もう一度口を開く。
土井はちくわを箸で持ちあげ、ふう、と冷ましてやる。
そのまま、そのちくわをきり丸の口の中へ。
「んー」
ちくわから染み出るだしとか、その温かさ、その味にきり丸は唸る。
十分にそれを堪能し、飲み込む。温かいものが喉から体へ向かうのがわかる。
「おいしい!」
自然と頬がほころび、きり丸はその場でステップを踏み出しそうな気分になる。
子供らしく喜びを体中で表現するきり丸を見て、土井も笑みを浮かべる。

外は寒いけれど、二人の胸はぽかぽかと暖かい。



2008.11.9 きり土井 土井先生にみんな一度は惚れる。



しずむたましい

日に照らされた少女の顔色は真っ白で、うつろな瞳でそれを見つめる少年の顔色は、少女以上の白さを誇っていた。
少年の纏う服はところどころ擦り切れ、体には多くの生傷がある。
だが、少年とは対照的に、彼の手にする剣は野心を含んだ者の眼のように爛々と光っている。

少年は少女に手を伸ばした。
ためらいがちに頬を撫で上げ、次に髪に触れる。
少女は何の反応を返さず、少年になされるがまま、祭壇に横たわっている。
「……モノ」
少年の薄い唇から洩れ出たのは、少女の名前だった。

在りし日の少女の姿を少年は思い返す。
ともに育った少女。少年にやわらかく微笑み、少年の名前を呼ぶ声。
(ここでは、誰も名前を呼んでくれない)
疲れ切った頭で、少年はそれに気づいた。
そうだ、ここに来てからというもの、誰もおれの名前を呼ばない。
それは仕方のないことだった。
ここに生きる人は、少年たった一人なのだから。

だから−−少年は思う。
だから、早く君に名前を呼んでもらいたい。
また、君の名前を呼びたい。

少年はもう一度少女の頬を撫で上げ、その存在を確認した。
愛馬にまたがり、少年は荒野へ向かう。
体は光のさすほうへ。
心は少女のもとへと向けたまま、少年の魂は昇華する。

2008.11.9 ワンダと巨像 アグロとハト大好き!




マズローの愛

さまざまな世界を見てきた。
いろんな人を見てきた。
こんな背格好でいるから、襲われることもあった。
お前にそれを話せばどうにかなるのだろうか。

罪が消える?
俺の心が救われる?

育ててくれた祖父の顔も、声も忘れたよ。
過ごした村も、もう記憶にないんだ。
近所に暮らしていたやさしいおばさんなんて、こんなことを考えるまで頭にも上らなかったさ。

初めて人を殺したときは手が震えた。
だが、それがいったいなんだというんだ。
そうだな、最初の10人くらいまでは数えていたよ。
だが、それ以上は数えていない。数えていたって仕方がないことに気づいたからだ。
俺がそいつを殺したところで世界は変わらなかった。
なにも変わらず朝はやってきて、人々は市場で食い物を買い、笑っていたよ。
俺はこの紋章がある限り生きていかなくてはならない。
生きていく限り、汚いこともしなくちゃいけない。

こんな話をしたら、ロト。
おまえは俺を罵るか?お前の目の前では、ほら、朗らかに笑っている俺だ。
グレミオさんが作るシチューが一番好きだと、食い意地の張ったことも言える。
かわいい女の子の話、将来の話、世界の話……。
大きな口をあけて笑うお前を見ると、俺の心が洗われる。

お前に会わなければよかった。
そうしたら、愛し愛されることを考えることなんてなかったのに。
こんな夜には、いろんなことを考えてしまう。
お前の小さな寝息は、俺の胸をかきむしる。

やわらかな前髪を撫で上げて、ずれ落ちた毛布をかけてやる。
月明かりに照らされたお前は、なんと穏やかな顔をしているのか。

俺には、お前の愛情が必要だ。今すぐに。


2008.10.26 幻想水滸伝 テッドと主人公




彼女はわたしと同じ顔をしていた。
真顔も、笑顔も、怒った顔も、ぜんぶ同じだった。
そう、彼女はわたしで、わたしは彼女なのだ。
ただ、住む世界が違うだけで、わたしたちは同じ「エアリス」なのだ。
「変わった服」
彼女はわたしを見て言った。
夢の淵で出会ったわたし達は、細い川を隔てて向かい合っている。

わたしのワンピースはピンクと白の色合いで、フリルがついている。
腰には皮製の細いベルトを巻いて、髪はピンクのリボンで結っている。
彼女の服はいたってシンプルだった。ピンクのワンピースに赤のジャケットを羽織った姿。
そんな彼女から見たら、わたしの服は変わっているのだろう。
「わたしは気に入ってるわ」
だって、彼が以前褒めてくれたもの。
「クラウドが?」
わたしが胸の内で呟いた言葉が彼女には分かったようで、彼女は即座に尋ねてきた。
頷くと、彼女はうっとりと目を細めたあと、今度は微笑を浮かべた。
彼女は何も言わなかったが、わたしに対する憧れがそこにはあった。
違う世界にわたしがいるのなら、彼女の世界にもクラウドはいるのだろうか。

「わたし、消えてしまった故郷を取り戻そうとしてるの。ねえ、あなたは何をしているの?」
わたしはわたしに興味があった。
彼女は暫く考えたあと
「わたしはわたしの居場所を見つけたところ」
言って、肩をすくめて笑った。
「とても楽しいわ。笑いに囲まれてて……こんなに幸せでいいのかなって思うくらい」
手を伸ばせば届きそうなほど近くにいる彼女は、白い肌を一層白くして言った。
口元は笑っているのに、彼女の淡い緑の瞳は色を増して揺らいでいた。

青色に透き通る川の水面が波打って、わたしは夢の終わりを感じた。
引き戻される。それを感じ、意識が遠のいていくとき彼女の声がした。
「ねえ、クラウドは笑ってる?クラウドは元気にしてる?」
微かに聞こえた言葉に、わたしは笑うよう努力した。
霞む視界の向こう、泣き崩れる彼女の姿が見えた。


目を開けると、いつものベッドにわたしは横になっていた。
僅かな機械の香りと、ユフィの声が隣りの部屋から聞こえている。
また、スコールと口論しているようだった。時計の針は早朝を指している。
わたしはベッドに横になったまま、夢の内容をなぞった。川の岸辺で出会ったわたしたち。
夢は、ありえないことが起こる。空を飛んだり、常識では考えられないことが夢ではできるのだ。
だから、あの夢もそれと同じかもしれない。
別のわたしがいるなんて、普通の考えではありえないはずなのだ。
だが、今のわたしはそれをすんなり受け入れることができる。
体がふわふわと、宙に浮かんでいる錯覚がおきる。

耳をすませば、あの川のせせらぎを聞けるかもしれなかった。


2008.10.25 FFエアリスと、KHエアリス 互いが互いを見たら、なにを考えるだろうか。





海を泳ぐ夢をみたの。
あっ、ごめんね、びっくりしたね。
うん、そう。海を泳ぐ夢。
わたし一人じゃないの、きみもいたよ。
わたしはイルカ、きみはそのままの姿でね。
きみは水着を着てた。そう、いまみたいな、ひざ丈のズボン。

わたし、海に入ったことないの。
ずっとビサイドにいたけど、召喚士になるための修行だったから……だから、夢で泳げてうれしかったあ。
きみは、泳ぐの速かったよ。ぐんぐん、ぐんぐん泳いで行ってね。
わたしは全然追いつけなかったの。ふふ、イルカなのに、追いつけないの。

わたし、生まれ変わったらイルカになりたい。
イルカになって、自由に泳ぐの。

え?シンを倒したら、海に行こうって?
うん、そうだね。海、行こうね。
そしたら、ねえ。泳ぎ、教えてね。わたし、がんばって泳ぐから。

透明な海に入ったら、きみがどこにいてもすぐに見つけられるね。
ザナルカンドエイブスのエース、ティーダ選手。
きみと、一緒に泳げたら楽しいだろうな。

うん、シン倒そうね。
ナギ節になったら、みんな楽しく海で泳げるよ。
わたし?ふふ、もしかしたら、怖気づいて海にはいないかもしれない。

ねえ、その時は。
わたしのこと、さがしてくれる?


2008.10.13 ユウナ ひとりごと
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