眼下に広がるのは炎に包まれる七番街。
不謹慎にも、綺麗と思ってしまった自分に嫌気がさした。
ヘリからは小さな点にしか見えないが、あの炎のなか、人々は生きようと足掻いている。
あの子は大丈夫だろうか。可愛い子だった。くりんとした丸い瞳でわたしを見て、あのもみじのような小さな手の感触はまだ残っている。

対面式のヘリの座席で、エアリスは小窓に額をつけて下に広がる惨事を見つめていた。
向かい側に座っているツォンがハンカチを取り出し、クーラーボックスに入っているミネラルウォーターでハンカチを冷やした。
それをエアリスに差し出すが、エアリスはそれを無視した。
「頬を冷やさないと腫れるぞ」
「何を今更」
吐き捨てるように言って、エアリスはツォンをにらみつけた。
先ほどわたしを叩いたその手で、今度はわたしを慰めるためにハンカチを差し出すのか。
「あなたは幾分ましかと思っていたけど、やっぱり最低だったのね」
「お褒めにあずかって光栄だ」
胸から湧き上がる怒りに拳を硬く握り、そのままツォンの頬を思い切り殴りつけた。
鈍い音がして、殴られた反動でツォンはエアリスに横顔を見せた。
ばりばりと音を立ててヘリは暗闇を飛んでいく。すぐ下には地獄の業火が罪のない人々を飲み込んでいる。
この構図はまるでわたしたちが悪魔のようだ。
目の前の男と、その背後にある企業だけでなく、わたしだって同じだと思った。

ツォンを殴ったところで何にもならない。ツォンが直々にこの判断を下したわけではなく、腐っているのは神羅のほうである。
わたしが彼を殴るのはお門違いだ。だがそれでも殴るというのは、目の前に彼がいたからだった。
ツォンはやはりなにも言わなかった。
数分後再度わたしに差し出すであろう水にぬらしたハンカチを自身の頬に当てるわけでもなく、彼は椅子に座ったままだった。

タークスの主任であるツォンは鍛え上げられた技を持っている。
神羅にいた時の話だが、彼は毎日トレーニングルームで筋肉を鍛えていたのを見たことがあるし、射撃室もあったような気がする。
幼いころだったので定かではないが、タークスである彼らはきっとそのような訓練を受けているだろう。

そんな彼に平手打ちされたというのに、わたしの頬はそこまで痛くはなかった。
むしろ、そこらのレベルの低いモンスターよりも力が弱かったように思える。

頬を触る。
淡い痛みがそこにあった。





2007/03/10 meri.
inserted by FC2 system