廻る廻る、世界が廻る。
熱が出たのだろうか、気分は最悪で、吐き気がする。


辺りは暗い。喉が渇く。
ベッドから体を起こし、周りを見渡した。
三つ並んだベッドの中、二つを俺とユフィが使い、レッド13は床で寝ている。
今夜はここで休み、明日ここを発つ。
体力の限界が来て、意識を失い目を覚ましたらここにいた。
初老の男性が住んでいるこの家。窓から外を見てみると、外は吹雪だった。
次に休めるのはいつだか分からない。大氷壁を乗り越えると大空洞だ。
体を休め、体力を回復しよう。ベッドに潜り込むが、深夜だというのに目はさえていた。


あの光景が蘇る。目を瞑り、思い出さないようにと思うが、そう思えば思うほど鮮明にあの光景は浮かび上がる。
あのとき、涙は流れなかった。この体は泣くことを忘れている。
胸にわき起こるのはセフィロスに対する怒りだけだ。
握り拳を作り目を閉じる。目を閉じても浮かんでくるのはあの光景だった。

次いで浮かんでくるのは笑顔。
笑顔、笑顔、笑顔。笑顔でいっぱいになる。
出会った教会、白い手を泥だらけにして花の世話をする姿、手を後ろに組み、首を傾げ笑う仕草。
一つ一つ、丁寧に思い出し、一つ一つゆっくりと暗闇に消えていった。

そして次に思うのは、彼女への罪悪感。
俺は彼女を馬鹿にしていた。いつも笑う彼女を馬鹿にしていた。
ただの脳天気。お気楽な、平和主義者。

心で決めつけ、馬鹿にしていた。花を育てるその姿も、全て馬鹿にしていた。
くだらない、くだらない、くだらない。花を育てて何になる。1ギルで花を売ってどうする。

それを口にしたこともあった。面と向かって彼女に言った。

そんなことをしてどうなる。誰も誉めてくれない。誰の為にもならない。

言うと、彼女は笑った。何も言わず、笑うだけだった。
否定も肯定もしなかった。

もうちょっと、待っててね。

それだけ言って、背を向け花に手を伸ばした。



本当は、羨ましかった。
羨ましかったんだ。俺にないものを持っている彼女が羨ましかった。
何故そのように笑えるのか。辛いことがあっても投げ出さず、いくら泣いても、次の日には日だまりのように笑う彼女。
誰にも誉められない花を育て、苦労して育てた花を安く売る。
俺とは違う。損か得かを考えて行動する俺とは違う。

自分の醜い部分が彼女の前ではいやに目に付いた。
その苛立ちを彼女にぶつけた。どれだけ彼女を突き放せるか、それを考えては自分でも嫌になることを彼女に言い続けた。

それでも彼女は笑った。
それどころか、ゴールドソーサーでは二人でデートをしようとまで言ってきた。
手を引かれて廻る、空には大きな花火が上がった。
彼女の顔に反射する。赤色、緑色、様々な色に変わり、彼女は綺麗だと、それを何度も繰り返した。




「気にしないで」




古代種の神殿で、顔を殴り続けた俺に彼女は夢の中で言った。
気にしないで、私はだいじょぶ。
森の向こうに消えていく彼女の背中を呆然と見つめた。





そして目の前に広がるあの光景。
微笑む彼女に俺は何をした。
剣を振り上げ、自らの手で彼女を。
ユフィとレッド13がいなかったら、俺は・・・。

それでも彼女は笑った。
自分を殺そうとした俺に向かって微笑んだ。
その時、頭上から降りてくるセフィロス。その体を貫く長い剣。見開いた瞳。飛び散る赤。
彼女の周りには血だまりができ、腕の中で、彼女は徐々に冷たくなっていった。
俺の腕に彼女の血がつく。彼女の命がロウソクの火のように小さくなっていくのが分かった。

呆然と、彼女の蒼白い顔を見ていた。何が起こったのか分からなかった。
悪い冗談だ。心臓が早鐘のように鳴った。
セフィロスが笑う。笑い声が耳に木霊して、脳裏には彼女の笑顔が駆けめぐった。

この掌には、まだ感覚が残っている。
彼女の重み、その体は軽く、湖に沈む彼女を見つめて絶望した。

彼女は死んだ。もう笑わない。
俺は彼女に何をした?
彼女を馬鹿にし、彼女を突き放し、そして殺そうとした。
そして彼女は死んだ。殺された。






震える手に息を吹きかける。
暖炉には火がくべてあり、部屋は暖かいのに寒気がする



エアリス、名前を口にするが、笑顔で振り返るその人はもういない。
深い喪失感が襲う。深い後悔、悲しみが押し寄せる。



エアリス、エアリス。
笑ってくれ、もう一度。
もう一度その姿を見せて、そして名前を呼んでくれ。

分かってる、分かってる。
幾ら願っても、幾ら時が経ってもエアリスはもう笑わない。
つい最近まで、共に旅をし、共に食事をとっていたのに、この先、エアリスはいないんだ。
世界中を探しても、エアリスはいない。
いつの間にか、彼女が俺の心の大部分を占めている。

いつもだ、母さんが死んだときも、いつも、失ってからその大切さを思い知らされる。
口うるさいと思っていた母さんが死んだときも、同じ絶望を味わった。
大切な人をセフィロスは奪っていく。母さんも、エアリスも。







エアリス、君を失う悲しみを、俺は乗り越えられるだろうか。
きっと、仲間が支えになってくれるだろう。
エアリス、君を忘れない。世界が君を忘れても、俺達は君を忘れない。
そして俺は、君の仇を打ちに行く。母さんとエアリスの仇、そして過去に蹴りをつけるために、俺は前に進むよ。

そして全てが終わったら、俺は君の教会へ向かおう。
君の愛した花を見つめ、そしてその花が咲き誇る季節はここを訪れるんだ。





その時、君はあの日のように笑ってくれるだろうか。
花を片手に、会いに行くよ。エアリス。















2005/06/19 meri.






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